どきどきワクワク生徒会ラブコメ ティンクル☆くるせいだーす GoGo!
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羊の方舟  (工画堂)

114 名前:羊の方舟[sage] 投稿日:2009/09/08(火) 20:27:56 ID:cTdSFPcg ?2BP(0)
 ■プロローグ
 物語開始時から3週間前。合衆国の衛星は地球に飛来する隕石を察知した。
 隕石の直径は地球の100分の1。世界にあるどんな兵器でも隕石を完全に消滅させることはできず、
 破壊したとしても、その破片のたったひとつで地球は壊滅的な被害を受ける。
 しかし、たったひとつだけ世界を救う方法がある。
 
 世界設定として、時は2100年から数年後、世界には突如として異能者が出現しはじめ、
 急増する異能者の存在を隠しきれなくなった各国の政府は、異能者の存在を公式に認め、
 数が多い子供の異能者は親元の管理に委ね、成人の場合は国に奉仕すれば異例の待遇が与えられる。
 それを受け入れない場合は、日常生活レベルの著しい制限を余儀なくされるという噂もあるが定かでない。
 異能者の能力は多伎に渡るが、中でも、レス、アンチなどの名で知られる系統の能力は、
 なにかを消す、壊すといった能力はもとより、二次的に例外なく付随する能力が特徴的だった。
 それは、受けた力を、同じだけの力で跳ね返すという能力。
 殴られれば、その力は相手へそのまま跳ね返り、異能者自身はその力を受けることはない。
 
 科学者のジーンは、レスやアンチと名のつく異能者を集めてシャトルに乗せ、隕石を打ち出すことがその方法だと語る。
 ジーンは、読心能力を持つピーター=フランクリンに、アンチ異能者を集めるよう任務を言い渡す。
 そして異能者のリストをピーターに渡し、方法や順番は任せるが2週間以内にできるだけ集めてと言う。
 ただし、計画についての情報を出すのは許可できない、報奨金は常識の範囲で好きに提示してよいらしい。
 ピーターはそれを聞き、彼らは金をもらっても使うことはできないだろうに、
 命に値段をつけることは、たとえ神にすらできないだろうと思うのだった。
 
115 名前:羊の方舟[sage] 投稿日:2009/09/08(火) 20:30:32 ID:cTdSFPcg ?2BP(0)
 研究所の廊下で、ひとりの異能者の少女とすれ違う。人の心が見え過ぎるピーターだが、
 先ほどの少女に、彼は何も見れなかった。空白な映像、そんな心とも言えない心が、彼の見たものだった。
 ピーターがジーンに、心がないのかと尋ねると、
 「正解。あの子には、心なんてない。生まれたばかりだから。そういう教育もしてないしね」という答えがかえってくる。
 クローンかと尋ねると、無から生み出した生物をそう呼んでも良いのならと、ジーンは返す。
 あの子の名前はサイファ。「零」という意味の名前。
 必要なアンチ異能者の生贄は、あの子を含めて最低2人。それは理論値の最低限であり、多ければ多いほど成功確率は増す。
 ピーターは最後に、ジーンにも聞こえないように口を開かず囁く。
 「……全部で、何人殺すんだ?」 誰が、とは言わなかった。
 
 ピーターは、まず極東の島国の異能者のもとへ向かう。
 1人目は、アキラ=ツキカワ。15歳の少年。
 アキラの能力は、記憶をなくさせること。能力に目覚めたきっかけは彼自身も覚えていない。
 一般に異能の目覚めるきっかけは、本人が強く何かを願うこと。そして未だ解明されてない第2の資質を兼ね備えてた時、
 異能に目覚め、能力が発動すると言われている。
 忘れたいと願うような出来事に遭遇したアキラが、そうさせる何かを憶えてない。
 ピーターは、それが幸せなことかアキラにも分からないだろうと、そう思うのだった。
 何も話すことができないが、2週間以内に合衆国のある場所に来て欲しい、
 もし断ったら、どうもならないが、私が少し困ったことになるというピーターの頼みを聞いたアキラは、
 行くと返事をする。ピーターが何故と問うと、おっさんが困るんだろ? という答えが返ってくる。
 仕事は完全に上手くいき、車の中で憮然としているピーターのもとへ、車内電話が掛かってくる。
 相手はジーン。彼女に連絡したのは運転手ら補佐官で、彼らが任務を監視していたことをピーターは悟る。
 労いの言葉をかけてくるジーンに、毎回こんな電話をしてくるのは遠慮願いたいとピーターは言う。
 
116 名前:羊の方舟[sage] 投稿日:2009/09/08(火) 20:33:21 ID:cTdSFPcg ?2BP(0)
 2人目は、アロイスという13歳の少年。彼は耳が聞こえないので、アイ=マツオカという盲目の少女が手話で通訳する。
 事情は何も話せないというピーターに、アイはアロイスが心配で、冷酷に対応し、頼みを断る。
 聡明なアイは、ピーターが異能者を連れて行くのに乗り気でないことに気付く。
 ピーターのこの結果に満足し、義理で他の異能者に会うだけ会って、全て失敗だったと合衆国に報告しようと
 晴れやかな決意を胸に、2人に別れを告げ、アキラに真実を伝えに行こうとの思いを抱き、
 失礼しようとしたところ、アロイスがピーターに、その必要はありませんよと突然話し始める。
 彼は耳は聞こえないが読唇術の訓練をしていた。そしてもう少しだけ話をしようとピーターをひきとめる。
 アロイスは、説得の事情の背景が大きいこと、ここで断ってもピーターの後任者が現れるだろうこと、
 後任者は強引な手段をとる可能性があり、アロイスたちが危険に晒されるかもしれないことを、ピーターの気遣いから察する。
 アンチ異能者は、どんな攻撃も跳ね返すので誰も強引な手段はとれないが、アイが彼にとっての枷だった。
 アロイスの、この話を断ったとして、僕たちはいつまでもここで幸せに暮らせるかという問いに、
 ピーターは、そう信じていると答えるが、その質問の正確な意図を理解しているピーターは心から肯定することができなかった。
 アイは即座に手話で『彼は、嘘をついている』とアロイスに伝える。
 ピーターは彼女の能力が真実と嘘を見分けることか、それを含む能力であると確信する。
 アロイスは、ピーターの申し出を受ける。アイの爪が彼の肩にくいこむが、しかしアロイスは表情を変えず微笑んだままだった。
 
117 名前:羊の方舟[sage] 投稿日:2009/09/08(火) 20:37:12 ID:cTdSFPcg ?2BP(0)
 ピーターは研究所に呼び戻される。案内の施設職員との雑談で、プロジェクトがノアと呼ばれていることを知る。
 彼は皮肉な名前をつけるものだと思った。ノアと動物たちが舟に乗ったのは生き延びるためだ。
 神の警告を受け、その恩恵を受けられたのは、方舟に乗ることを許された人間と動物たちだけだ。
 しかし、彼らが方舟と名付けたシャトルに乗ったものは、決して生きては戻らないだろう。
 神の怒りをその身に受けにいくのだ。地上に残った堕落した人間を救うために。
 ジーンのもとへ行くと、そこにはサイファもいた。
 ピーターは少しだけサイファと話がしたいと、いくつか質問する。
 君は、死ぬために生まれたのか? という質問に、サイファは頷いたり、表情を変えたりしなかったが、
 それでもピーターには、サイファがその質問に対して肯定するのが見えた。
 ジーンは、私たち人類を守るために彼女はシャトルに乗ると言うが、ピーターは違うとそう否定したかった。
 
 ピーターはジーンに拳銃を突きつけ、出て行かせてもらおうと言うが、
 ジーンは一瞬の隙をついて拳銃を抜き、お互い拳銃を向け合う。ジーンは、あなたには撃てない、
 あなたが最初の殉教者になるわねと呟く。ピーターはその言葉に自分の未来を見る。そして部屋に銃声が響く。
 
118 名前:羊の方舟[sage] 投稿日:2009/09/08(火) 20:41:01 ID:cTdSFPcg ?2BP(0)
 ■1.Project Noah
 ジーンは会議室に異能者たちを集めていた。そしてアキラ、アロイス、アイ、ウォルシュという異能者達に、
 約5週間ほど前、飛来する隕石を合衆国の衛星が察知した、
 地球が助かる唯一の方法はあなた達をシャトル乗せ、隕石に打ち出すことだと、さらりと言ってのける。
 合衆国にもいた何人かのアンチ異能者は、事前に情報をリークした者がいたため、全て逃亡した。
 そいつの名はアロイス=トイフェル。アロイスは事前に何も知らされていなかったから情報は流してないと反論するが、
 ジーンは、アロイスが知人と電話で話した内容、それ自体が問題だったと述べる。
 その友人は、アロイスと同じ種類の異能者で、合衆国の要職につく人物であり、ピーターの友人でもあった。
 とにかく、ここにいる3人と、サイファの、合わせた4人が全てだと、ジーンは言う。
 ウォルシュは殺されてたまるかと、降りようとするが、ジーンは無理だと無慈悲な言葉を投げかける。
 地下施設のこの区画と他の区画を隔てるシャッターは、アロイスが部屋に入ってすぐに閉じられていた。
 ジーンは、3つほど良いニュースがあると続ける。
 1つ目は、4人の内、2人がシャトルに乗れば構わないこと。
 2つ目は、その内の1人は、サイファが乗ることが決定していること。
 3つ目は、残り1つの枠に誰が選ばれても、報奨金は全員に支払われること。
 成功率は、シミュレーションでの結果では、2人でほぼ9割、4人でほぼ10割といったところ。
 サイファだけだと5割を切ることになり、とても世界の命運を賭けたくなるような確率とは言えないわねと結ぶ。
 ウォルシュのどうやってその1人を決めるのかという質問に、
 ジーンは、それも全てあなた達3人が決める。全員が納得する方法で、と答える。
 期間は今日を含めて6日間。7日目の朝に決められた人物がシャトルに乗り、打ち出されることになる。
 誰もが納得しなかったら、5割の確率で人類が滅ぶ、ただそれだけだと、ジーンは話しを済ます。
 
119 名前:羊の方舟[sage] 投稿日:2009/09/08(火) 20:45:23 ID:cTdSFPcg ?2BP(0)
 そしてジーンはサイファを4人に紹介する。
 その後メイド達を呼び、あなた達は彼女達をどのように扱っても構わないと告げる。
 ウォルシュはアピールする娼婦たちには目もくれず、ひときわ若く幼さの残る少女を選ぶ。
 アキラは、サイファじゃ駄目か? と言い始め、変わった趣味ねとのジーンの感想に、
 そういうわけじゃなく、身の回りの世話を逆に俺がやってもいい、
 こいつたぶん心がないわけじゃない、ただ記憶がないんだろ? なら最後の1週間くらい、
 良い思い出でも作ってやりたいて思ったからと言う。
 ジーンはしばらく訝しげにアキラを見つめていたが、アキラが本気だと分かると諦めたように認める。
 
 そして人がいなくなり、会議室で1人タバコを吸っていたジーンのもとへ、アイが話をしに来る。
 アイは、今日の話はほとんどが本当だったが、たったひとつだけ嘘がありましたねと、
 「約5週間ほど前、地球に向かって飛来する隕石を、我が合衆国の誇る、優秀な衛星が察知した」という言葉を、
 ジーンを真似るように呟くと、ジーンは悪びれた様子も無く認める。
 ジーンが言うには、遺伝子と異能の関係を研究している自分が、このプロジェクトに抜擢されたのが、今から5週間前。
 宇宙工学の偉い学者だかが、さっきの台詞を言ったのよと侮蔑を込めて呟く。「今から1週間ほど前、地球に向かって──」。
 確かに私は素人だけど、衝突2ヶ月前にならないと分からない隕石が近づいてる状況なんて、考えられない。
 我が合衆国の誇る、優秀な衛星が、そこまで接近するまで全く発見できなかったと本気で思う?
 実際の所は、数年前にはその存在は確認されていて、様々なプロジェクトが打ち立てられた、
 居住可能な惑星の探索、そしてテラフォーミング計画。地下に穴倉を掘って、選ばれた人間だけが生き残るという計画。
 それらのプロジェクトのどれもが途中で不可能だと分かり、破棄され、
 そんな中で急遽立ち上がったのが、このプロジェクトだと言う。
 
120 名前:羊の方舟[sage] 投稿日:2009/09/08(火) 20:49:04 ID:cTdSFPcg ?2BP(0)
 ■2.The only hervest
 2日目は、冷静に話を進めようとするアロイスと感情的に否定するウォルシュとの、皮肉と罵りの応酬ばかりで、
 実りのある結果はでない。アキラは二人を傍観してただけ。
 夜が訪れ、自室に戻ったアキラは、残る5日間サイファとどのように過ごすか考えていた。
 サイファに自我を芽生えさせ、言葉を理解させるようにすれば、彼女も話し合いに参加できるかもしれない。
 もしサイファがシャトルに乗ることを拒めば、あるいは。それは、自分の死ぬ確率を増やすことと同意義であり、
 たった1週間で自我なんて芽生えないかもしれない、馬鹿な考えかもしれない。
 それならば、幸せだと思える時間を作ってあげるという考えも捨てきれなかった。では自分はどうするべきか?
 アキラはそんなことを考えながら眠りについた。
 
 ■3.Marvelous Treat
 アイはあてがわれた二人の部屋でアロイスに、ジーンのプロジェクトの話は真実であること、
 能力の一端である、真実と嘘を見分けられることを知られたことを告げる。
 そしてアイの異能で部屋に盗聴器やカメラなどの機械が仕掛けられてないことを確かめる。
 その後、施設職員がアロイスに頼まれたパソコンを届けにきた。無線でネットには繋がっている。
 ただし、受信はできるけど送信は制限されていて、カードの入力や認証なども無理。
 二人は、特別なサインを決めて秘密の意思疎通をはかる。アロイスは常人には聞こえない声でアイにささやき、
 アイはアロイスに触れた手で、イエスとノー、それぞれのサインで伝えるというものだ。
 自室でアイは、アロイスに、あなたがシャトルに乗るなら私も乗る、
 死ぬべき人間がいるとしたらアキラとウォルシュの二人、あなたは生きるべきだと、胸の内を明かす。
 
121 名前:羊の方舟[sage] 投稿日:2009/09/08(火) 20:53:09 ID:cTdSFPcg ?2BP(0)
 ■4.How much is the price of your life
 ウォルシュは自室で、メイドの少女・リ=ジーメイと話をする。呼びにくいという理由でシャオリーと呼ぶ。
 早速お楽しみしようとシャオリーを押し倒すが、商売女のように冷静だったので、
 ウォルシュは、泣き叫ぶ面と憎悪の視線をこそ求めていたので、萎えてことをやめる。
 しかし、シャオリーが何故このような仕事をするかについて答えないのを見て、
 そいつを暴けばこいつは憎悪を抱くだろうと、もうそんな質問はしないと約束するよと言って部屋におく。
 他人の前では取り繕っても、二人きりのときは本心を語れとウォルシュは命令し、
 素直に棘のある言葉を吐くようになったシャオリーと皮肉の応酬をして、その日は終わる。
 
 次の日、会議でシャオリーが勝手に発言したことをウォルシュは詰め寄る。
 そして追求の結果、シャオリーはウォルシュの世話をするだけで借金の半分、
 ウォルシュにシャトルに乗ることを決断させられれば、もう半分、合計2億ドルが支払われる契約だったと分かる。
 そしてシャオリーが『不慮の事故』で死んでしまったとしても、報酬は全額支払われることも。
 
 ■5.Sprout of tearsife
 会議で以前の繰り返しは御免と、自分のことをどこまで話すか自由だが、異能だけはお互い公開することになる。
 アキラの異能は記憶を消すこと。消せる記憶は自分が知っている内容。単語や事柄、話で聞いたことなど。
 彼の覚えている最も古い記憶は『家族に関する記憶を消したい』と願ったこと。
 それ以来、彼は何かから逃げるように記憶を消し、記憶を消した記憶だけが残った。
 また、自分が過去を知り、その記憶を消したという記憶が3回分残っていた。
 ウォルシュの能力は、感情を消すこと。アイに暴力を振るい、アロイスの憎悪を消して実践してみせる。
 アロイスの能力は光を消すこと。能力発現のきっかけはアイのため。
 闇に乗じて万年筆でウォルシュを刺そうとするが、反射能力が発動して失敗する。
 会議の後、アキラは自室でサイファの持つうさぎのぬいぐるみを触ってしまい、
 そのことでサイファが感情を見せたので驚く。ついぬいぐるみを引っ張ると、耳がちぎれてサイファは泣き喚く。
 アキラはアロイス達に裁縫を頼んで直してもらう。
 
122 名前:羊の方舟[sage] 投稿日:2009/09/08(火) 20:57:14 ID:cTdSFPcg ?2BP(0)
 ■6.Why are they angryand weep
 『サイファは何故泣いていたんだろう』それがアキラの頼みを受けた後の、アロイスとアイの疑問だった。
 生まれた間もないクローンが感情を持つなんて有り得るのか? そんなことを考えるのは生命への冒涜か?
 サイファがもし感情を持っていて、シャトルに乗ることを拒否したら……
 アロイスはそんな疑問を口にしようとするが、アイはやめてと言葉を遮る。
 彼女は優しい。センス系の異能者はみな優しすぎる。アロイスはアイの様子を見てそう思うのだった。
 
 ■7.I'll kill you
 ウォルシュは会議後、ジーンと二人で話しをする。内容はレス系能力者を殺す方法について。
 ジーンは弁をふるう。異能の発動条件のひとつは能力者が認識すること。
 たとえば、アキラが記憶を消すときは、言葉でも頭の中で意識するのでも、これについての記憶を消す、と認識する。
 自分の知らない事柄や食べ物は思い浮かばないのでアキラは消せないというが、
 食べ物について、あるいは人生など、その事柄に関わる全記憶を消す、と認識すると、知らないことでも消せる。
 アロイスの場合でも、区切られた空間の光を消す認識なので、ドアの隙間や窓が開いていても、本人の認識次第。
 そして、レス系能力者のもう一つについてもそれは同じ。つまり危険と認識できないと無力。
 ジーンは突然話を切り替え、ウォルシュを誘惑する。そしてキスすると、これであなたは死ぬと囁く。
 口紅には遅効性の毒が塗られていて、解毒剤が無いと死に至ると言う。
 そしてウォルシュが明日からきちんと話し合いに参加するよう、ジーンは錠剤と引き換えに取引をする。
 
123 名前:羊の方舟[sage] 投稿日:2009/09/08(火) 21:00:11 ID:cTdSFPcg ?2BP(0)
 ■8.A lot of seeds
 アキラは朝、珍しくジーンからの電話を受ける。内容はサイファを実験のために1日借りたいというものだった。
 施設職員がサイファを連れて行く。その後アキラ達は会議でジーンから能力についての説明を受ける。
 昨日話したように異能は認識に左右されるが、隕石が能力のテリトリーに入るころには、
 グランドキャニオンの4分の1の塊が目の前に広がる。それを物体として認識してもらわなくてはならないと。
 アロイスは宇宙服の酸素が24時間はもつことを聞くと、シャトルをもうひとつ用意して、
 隕石のベクトルを変えた後、そのシャトルで回収してもらえないかとジーンに尋ねるが、
 隕石には重力があり、あなたたちは秒速5kmで地球から遠ざかることになるという答えが返る。
 会議でアロイスはゲームで死ぬものを決めることを提案する。
 ひとりずつ制限時間内に、誰が生きるべきか死ぬべきか、その理由をひとつずつ挙げていく。
 制限時間内に答えられなかった者がシャトルに乗る。
 理由は残りの2人が承認すればどんな些細なものでもいい。認められなければ制限時間をリセットしてやりなおす。
 質問は自由にでき、その間は制限時間は止まる。
 期日までに決まらなければ、3人とも乗るか、3人とも乗らないか、誰かが自主的に乗るに任せるかといったところ。
 施設職員のエドワード=クラークに時間管理と記録を任せてゲームがはじまる。
 
 会議後、アキラはサイファに会いたいとエドワードを呼ぶが、彼は頑なに何も教えられないと拒む。
 アキラは、エドワードのアキラに関する視覚の記憶をリアルタイムで消すことで、彼を尾行しサイファのもとへ行く。
 そこでアキラはサイファそっくりの少女・イスナーンを見る。彼女はアンチ系能力者ではない。
 実験の成果とやらが何人いるかアキラはジーンに問うが、それを聞いたところでどうするつもり、
 サイファのようにすべてを救うつもりか、だいいちサイファを救っているといえるのかと酷薄に言う。
 
124 名前:羊の方舟[sage] 投稿日:2009/09/08(火) 21:03:32 ID:cTdSFPcg ?2BP(0)
 ■9.Look at my eyes
 アイの様子がおかしくなる。アロイスは彼女のことをマイだとか母さんなどと呼称する。
 
 ■10.Because I love you
 ウォルシュは医者を呼んで乱暴して壊れてしまったシャオリーをみさせる。シャオリーは正常に戻る。
 シャオリーはウォルシュの過去を知ったようで、潤んだ瞳で、あなたはかわいそうな人、哀れな人、と語りかける。
 ウォルスは怒って銃を突きつけ、殺すぞと脅すが、シャオリーは言う。
 「無理です。だって、その銃には……弾が入っていないんですから。あなたのお父様が残した、最後の1発は……」
 「あなたが自分に使うべきだと思っていたその1発は、ウォルシュ、あなたが使ってしまった」
 過去の記憶を思い出して取り乱すウォルシュを、シャオリーは優しく抱きしめる。
 「ウォルシュ、私があなたを、殺してあげます」 「だから」 「だから、私を愛してください」
 なぜ、とウォルシュが問う。「あなたは、シャトルに乗るからです」
 ……ああ、そうか。死は、すぐそこにあった。手を伸ばせば、届きそうなほどに。
 彼が殺した女によく似た少女の胸の中で、彼はそう思うのだった。
 
125 名前:羊の方舟[sage] 投稿日:2009/09/08(火) 21:08:00 ID:cTdSFPcg ?2BP(0)
 ■Epilogue
 【Do not foget until dying】
 アキラは実験室で見たこと、そしてサイファとの記憶を、消さないことを決意して実験室を後にする。
 次の日の朝、ウォルシュから今日は会議を無しにして欲しいという連絡があり、了承する。
 その次の日、会議でゲームの開始が宣言され、アキラは制限時間が過ぎて自分の負けが決まってから、
 自分の生きるべき理由を話す。心から生きたいという理由を。
 「俺は、サイファのために生きたい。残された時間の、全てを」
 
 シャトルに乗る前、アキラはエドワードと話をする。
 死んだら全てを失う、ってただそれだけのことだと思う。俺には、何もなかった。
 なにもないってのは失うものがないってことだろ?
 エドワードはそれに対し、あなたはサイファを得たでしょうと問う。
 そう。だから、それを失うのは死ぬのと同じ事なんだよ。
 でも俺は、それを失いはしない。手放したりはしない。絶対に、死ぬまで。
 そしてジーンに、俺は生きるためにシャトルに乗るんだよと言う。
 
 隕石群を目前にして、アキラはサイファから初めて自分の名前を呼ばれる。
 そう。それが、俺の名前だ。サイファ。死ぬまで、忘れるなよ。俺も、死ぬまで忘れないから。
 
 
 【I die so that you may live】
 昔アロイスは、聴力を失い世界の半分がなくなったと絶望していたところをアイのおかげで救われた。
 ところがアイには月に一度妙なところがある。その日は独房に入れられていたある男が運動のために自由にされる日。
 アイは施設にいたその男の子を身篭ったことがある。そしてその小さな命は失われた。男は独房に移された。
 アロイスは男を殺そうと決意するが、独房で見た真実は男と女が情を交わすところであった。
 見たくない。そう心から願った。世界は闇に包まれた。思考が正常に働くようになり力を解放すると、
 折れたナイフを握り締め、首から血を流す死体があった。
 マイは、愛する人と子どもを奪われた。あなたには、義務がある。あなたは私の子どもになるのと言った。
 アイは、アロイスの様子が変わったことに気付き、問いただしても明確な答えが手に入れられないと悟ったとき、
 彼女もまた異能者となった。全てを知り、それでもアロイスと一緒に居続けた。
 アイと、月に数日間だけ表れるマイ、その両方を彼は愛していた。
 
126 名前:羊の方舟[sage] 投稿日:2009/09/08(火) 21:12:12 ID:cTdSFPcg ?2BP(0)
 会議でゲームの開始が宣言される。
 アキラは俺が死ぬべきだと言う。彼は一昨日、記憶を消すことを選んだ。記憶とともに何かも失った。
 ウォルシュは自分が死ぬべき理由を挙げる。昨日一人、守るべき人間が出来た。そいつのためにシャトルに乗ってもいいと。
 アロイスは既に決めていた。愛する人を死なせないためにシャトルに乗る。
 それは僕の意志が決定したことであり、意志をもたない者は決定する資格すらない。
 ゲームはアロイスの負けで終わる。
 
 アロイスはアイに強い鎮静剤を飲ませ、シャトルに乗る。しかしマイはシャトルに一緒に乗り込む。
 薬は飲んだふりをしただけ。何故またマイの意識なのか本人にも分からないが、アイがそう望んだからと推測する。
 アロイスが何故マイはシャトルに乗ったのかと核心に迫ると、この手であなたを殺すためと言って首を絞めてくる。
 アロイスは遠のく意識で、これが彼女の望みならそれもいいと受け容れる。
 僕は世界を救うなんて大それた望みはもっていなかった。ただ、愛する2人の女性を……
 目を開くと、頭をかかえ、なんでと叫び続けているマイ。
 アロイスは、僕は君を愛していると抱きしめる。マイはアロイスを押しのけもう一度叫ぶ。「私は!」
 アイ、いるんでしょう? そのアロイスの言葉とともに彼女はゆっくりと瞳を閉じ、そして目を開く。
 アロイスはアイに言う。マイも君だ。だから僕は君を愛している。
 もっと時間をかけて本当の君に戻って欲しかったけど、時間がなかった。だから君の世界から逃げ出そうとした。
 こんなことになってしまって、本当にごめん、と。
 欠けていた世界が、ゆっくりと、元通りになる。それでも僕達は、不完全だった。
 そして僕達は、身体をひとつにすることによって完全になった。
 例えそれが、世界の終わりのほんのわずかな時間であったとしても、それには意味があった。
 
127 名前:羊の方舟[sage] 投稿日:2009/09/08(火) 21:16:28 ID:cTdSFPcg ?2BP(0)
 【All feelings disappear】
 ウォルシュは両親が自殺し、叔父夫婦にひきとられてからスラムに出入りするようになった。
 そこで唖の物乞いの少女を見かけた。彼は少女に食べ物を与えるようになった。そんな生活が数ヶ月続いた。
 ある寒い雪の日。あまりに寒そうに見えて、ウォルシュは夜、少女の様子を見に行った。
 怪しい気配を感じた。ぼろを纏ったうす汚い男だった。カートを押していて中にはバールが入っていた。
 つけられているという確信はなかったが、ウォルシュは警戒して、いつでも銃を抜けるよう身構えて歩いた。
 急に後ろから来る足音が大きくなり、気付けば彼の身体が後ろに引かれた。彼のコートを誰かが引っ張っていた。
 彼は銃を抜き、背後の影を目がけて引き金を引いた。崩れ落ちるよう倒れたのは、あの少女だった。
 ウォルシュは怒っていた。自分に対して。すぐに警察が来た。
 ウォルシュは、身もだえするほどの怒りを感じていたが、それを抑えなければならないと必死になった。
 彼が強くそう思うと、それと同時に、全ての感情は消えうせた。
 警察は死体の身なりを見て露骨にやる気を失い、物乞いが市民に襲い掛かろうとしたのだから正当防衛だと結論づけた。
 冷静に全てを考えることのできる理性は、それこそが正しい答えだと、悟っていた。そして彼は無罪になった。
 それからのウォルシュは怒りに全てをまかせるようになった。能力は全く使わなかった。
 彼は贖罪を求めていた。怒りをぶつけ、いつか彼を殺すほどの反感をその身に受けることを夢想した。
 
 シャオリーは、ウォルシュのことが知りたいと思っていた。気付けば、ウォルシュの人生の物語を書いていた。
 だからこそ、書かれたものが、全て真実だと悟った。
 シャオリーが倒れて、ウォルシュは今日のゲームは中止にしてくれと連絡する。駄目なら俺の負けでいいとも。
 夜半過ぎにウォルシュが目を覚ますと、シャオリーが文字を打っていた。
 
128 名前:羊の方舟[sage] 投稿日:2009/09/08(火) 21:20:32 ID:cTdSFPcg ?2BP(0)
 会議でゲームの開始が宣言される。自分が死ぬべきだと思う理由をひとつ話すアキラとウォルシュ。
 そしてアロイスも、自分は死ぬべきだ、愛する人に幸せになってほしいから、以上です、と言葉にする。
 エドワードはそれでは理由になってないのではと意見をうかがう。
 ウォルシュは認める。そこでアロイスの余裕の笑みが崩れる。アキラにも確認をとりゲーム続行。
 次もアキラは自分の死ぬべき理由を挙げる。そしてゲームはウォルシュの負けで終わる。
 シャオリーが、私があなたの側にいたいからと、シャトルに一緒に乗り込む。
 隕石群を目前にして、怯えるシャオリー。消してやろうかと尋ねるウォルシュ。
 あなたは怖くないの? という問いに、ウォルシュは何の感情もない。能力はつかってないのにな、と答える。
 本当に? という言葉を受け、ウォルシュは泡のように浮かび上がったひとつの感情に気付く。
 それは、ひょっとしたら、愛と呼ばれる感情だったかもしれない……
 
 【Cipher】
 ジーンは、イスナーンの能力で異能者たちの様子を監視していた。
 ジーンはゲームの敗者が決定する前に、ゲームの終了を宣言し、明日乗る意志のある者がシャトルに乗るよう告げる。
 これで計画通り、4人の能力者が乗ればプロジェクトはほぼ100%成功すると。
 
 シャトルの中で、シャオリーはサイファの物語を書き、その内容を他の者にも知らせる。
 サイファには全てを消す能力が備わっていた。
 隕石群と衝突する時間になっても、何事もなくシャトルは宇宙を航行していた。
 しかし、シャトルには戻る手段はなかった。もともとそんなことはないと仮定されていたから。
 6人は、それぞれの部屋に戻った。数時間後、ひとつのつがいがこの世から存在を消した。
 それから丸一日後、残る片方が消してくれと懇願した。君の力は、多分この世界で一番優しい力だねと言って。
 最後のつがいは、お互い名前を呼び合い、一緒に消える。


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